大阪高等裁判所 昭和54年(ネ)893号 判決 1980年4月24日
控訴人(原告) 全日本造船機械労働組合佐野安船渠分会 外一名
被控訴人(被告) 佐野安船渠株式会社
主文
一 原判決主文第一項を取消す。
二 控訴人全日本造船機械労働組合佐野安船渠分会の訴を大阪地方裁判所へ差し戻す。
三 控訴人賀紋敏幸の控訴に基き原判決主文第三項を次のとおり変更する。
1 被控訴人は控訴人賀紋敏幸に対し金五万円及びこれに対する昭和五三年一二月七日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
2 控訴人賀紋敏幸のその余の請求(債務不履行に基く損害賠償請求)を棄却する。
四 控訴人賀紋敏幸の当審における新請求を棄却する。
五 第三、四項に関する訴訟費用は第一・二審を通じこれを二分し、その一を控訴人賀紋敏幸の負担、その余を被控訴人の負担とする。
事実
一 控訴代理人は「1 原判決主文第一、三項を取消す。2 (主位的請求)控訴人全日本造船機械労働組合佐野安船渠分会(以下、控訴人分会という。)と被控訴人との間において昭和三〇年六月一日締結された労働協約(以下、本件協約という。)第五〇条のうち『実働七時間を原則とし』と規定された部分(以下、本件協約部分という。)が効力を有することを確認する。(当審において追加された予備的請求)被控訴人は本件協約部分に従え。3 (従前請求及び当審において追加された選択的新請求)被控訴人は控訴人賀紋敏幸(以下、控訴人賀紋という。)に対し金一〇万円及びこれに対する昭和五三年一二月七日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。4 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は「1 本件各控訴を棄却する。2 控訴費用は控訴人らの負担とする。」との判決を求めた。
二 当事者双方の主張及び証拠関係は、次に付加・訂正するほか、原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。
(訂正)
1 原判決三枚目表一二行目の「山村及び同」を、同末行の「いずれも」を、同裏一〇行目の「山村及び同」をそれぞれ削除する。
2 同六枚目裏三行目の「原告山村は」から同六行目の「原告賀紋は」までを「控訴人賀紋は債務不履行(不完全履行)に基く」と改める。
3 同一一枚目表五行目の「労働日」を「労働日数」と、同一二枚目表五行目の「幣害」を「弊害」と、同八行目の「併う」を「伴う」とそれぞれ改める。
4 同一四枚目表七、八行目の「縮少」を「縮小」と、同一五枚目裏一一行目の「したとして」を「したものとしては」と、同一七枚目裏四行目の「生産制」を「生産性」とそれぞれ改める。
(控訴人分会の主張)
1 一般に、労働協約の一方当事者である労働組合は、他方当事者である使用者が労働協約の規範的部分を実行しない場合には、労働協約の実効性を確保するため、使用者に対し、「労働協約で定めた基準に従え。」と請求する法的権利を有し、使用者はこれに対応していわゆる実行義務を負つている。
使用者が労働協約の規範的部分を無視して実行しない場合に、労働組合に対して、右のような請求権のみならず一切の法律上の救済を与えず、損害が発生したときに限りその賠償請求のみを認めると解することは、労働協約に関する法的規制としては著しく不適切であつて、誤つた法律解釈といわざるをえない。
2 本件協約部分は本件協約の規範的部分に該当するものであつて、本件協約の一方当事者である控訴人分会が、本件協約部分を無視する他方当事者の被控訴人に対し、控訴の趣旨2項の主位的確認請求(以下、本件確認請求といい、その請求にかかる訴を本件確認の訴という。)をすることが本件紛争解決に最も適切であるから、控訴人分会は本訴確認請求につき当事者適格を有し、かつ本件確認の訴は確認の利益があつて適法であるというべきである。
3 仮に本訴確認請求が不適法であるとするならば、控訴人分会は、予備的に控訴の趣旨2項の予備的請求を追加する。
(控訴人賀紋の主張)
1 債務不履行に基く損害賠償の従前請求について
(一) 一般に、使用者は、従業員と結んだ労働(雇用)契約で定めたとおりに従業員を処遇すべき義務があるのであつて、従業員が右労働契約で定めたとおり労務の提供をしている場合には、これに対し所定の賃金を支払うべき義務を負うものであるほか、右労働契約と異なる就業に関する取扱いを提案し、これに従わない従業員を他の従業員と比して不当に差別し不利益な取扱いをしてはならない義務を負つている。
(二) 本件協約部分は有効であり、これに従い被控訴人と控訴人賀紋との間の労働契約において、一日の定時実働労働時間は七時間とする旨合意され、また昭和四八年(但し七月二〇日以前)当時定時実働労働の始業時刻は午前八時、終業時刻は午後三時四五分と定められていたところ、被控訴人は昭和四八年七月二一日に、一日の定時実働労働時間を七時間三〇分とし、これに伴つて定時実働労働の終業時刻を午後四時一五分とする旨の昭和四八年規則を定めて実施したが、右規則は本件協約部分及び被控訴人と控訴人賀紋との前記労働契約に反する違法・無効のものである。
したがつて、被控訴人は、昭和四八年七月二一日以降においても控訴人賀紋に対し昭和四八年規則に基く取扱いをしてはならないし、同控訴人が同規則に従わない場合にその故をもつて同控訴人を他の従業員と差別し不利益な取扱いをしてはならない義務があつた。
(三) しかるに被控訴人は、昭和四八年七月二一日から同五一年七月までの間、控訴人賀紋に対し次のように労働契約に定めのないことを強制し、不利益な差別的取扱いをした。すなわち、同控訴人が前記労働契約どおり午後三時四五分で定時実働労働を終ると早退があるとして三〇分間分の賃金カツトをし、一時間の残業をしても三〇分間分の残業手当の支払をせず、そのほか定時実働労働を終え三時五五分に出門すべく入浴等の出門の準備をしようとすると、これをさせないで不当に身柄を拘束し、また昭和四九年三月及び同五一年四月頃には控訴人賀紋に対し、無断早退があるとし、就業規則違反を理由として処分の可能性がある旨の指示書や警告書を交付し、さらには昭和四九年ないし同五一年の各四月の定期昇給及び昭和四九、五〇年の各七月、一二月、昭和五一年の七月の一時金査定時には、就業規則違反の早退があつたこと等を理由として不利益な差別的取扱いをした。
(四) 被控訴人には控訴人賀紋に対する右の如き債務不履行(不完全履行)があつたものであるところ、右債務の性質及び同控訴人が現在被控訴人を退職していることから、同控訴人は改めて被控訴人から本来の給付を受けえないから、これに代る填補賠償を求めうるものであり、その損害の範囲は被控訴人の前記義務違反と相当因果関係内にある財産的・精神的損害のすべてに及ぶものである。
(五) しかして控訴人賀紋は、昭和四八年七月二一日から同五一年七月までの三年間を通じ一か月間に前記労働契約に基づく適正な時間帯による計算において少なくとも平均三七時間分の残業をしたが、被控訴人は、前記違法・無効な昭和四八年規則に基いて平均二五・五時間分の残業手当を支給したにすぎず、右差額の一一・五時間分の残業手当の支払をしていないから、一か月間の平均残業手当未払分は一万一三二七円を下回らない。その他本件における一切の事情を考えると、控訴人賀紋の全損害額は本訴請求金額の一〇万円を下回るものではない。
2 不法行為に基く損害賠償の当審において追加された選択的新請求について
(一) 従業員は、使用者と結んだ労働契約に基き使用者から適正に処遇されるべきであつて、労働契約で定められたとおりの労務を提供している場合には、他の従業員と比して不当に差別されること等なく取扱われ、その結果を享受する法的利益を有するものであるところ、使用者がこれを違法に侵害するときは不法行為が成立し、使用者はこれによつて従業員が被つた財産的・精神的損害のすべてを賠償すべき義務があり、この場合被害者たる従業員は右損害を包括して慰藉料の請求をすることも許されるべきである。
(二) 被控訴人は、控訴人賀紋が被控訴人との前記1(二)の労働契約に従い労務を提供しているにかかわらず、昭和四八年七月二一日以降右労働契約に違反する違法・無効な昭和四八年規則を定めたと称し、故意又は過失により前記1(三)の態様で違法に控訴人賀紋が被控訴人に対して有する前記適正に処遇されるべき等の法的利益を侵害し、同控訴人に財産的・精神的損害を与えたものであつて、その損害額(慰藉料額)は前記諸事情を考えると一〇万円を下回るものではない。
(三) よつて、控訴人賀紋は被控訴人に対し、債務不履行に基く損害賠償の従前請求と選択的に不法行為に基く損害賠償として一〇万円及びこれに対する訴変更の翌日の、又は不法行為日以後の昭和五三年一二月七日から支払済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(被控訴人の主張)
1 控訴人分会の本件協約部分が有効である旨の本訴確認請求は、訴訟上の請求としての特定性を欠く不適法のものであつて、却下を免れない。
2 控訴人賀紋の金員支払請求は本件協約が有効であること及び昭和四八年規則が無効であることを前提とするものであるが、本件協約は昭和四八年当時既に効力がなく、また昭和四八年規則は有効であるから、右請求は理由がない。
被控訴人の従業員の労働時間については、本件協約を締結したのち、被控訴人と控訴人分会との間の協約による定めはなされず、昭和四二年規則により定時実働労働時間は午前八時から午後三時四五分とする旨、本件協約と異なる定めがなされたところ、昭和四二年規則は、これにつき被控訴人と控訴人分会とは協定書を取交しておらず、あくまで就業規則としての効力しかないから、昭和四二年規則の改定を就業規則で行うことは何ら差し支えなく、合理的な内容を有する昭和四八年規則が昭和四二年規則と異なる故に違法・無効視されるいわれはない。
3 控訴人賀紋は従前の財産的損害賠償請求と合せて慰藉料請求をしているが、同控訴人に財産的損害の賠償を受けてもなお慰藉されない精神的損害があるとはいえないから、右慰藉料請求は失当である。
(証拠)省略
理由
一 まず、控訴人分会の本件確認の訴の適否について判断する。
1 本件協約部分は、被控訴人の従業員の「労働条件その他の労働者の待遇に関する基準」(労組法一六条)に該当する(本件協約のうちのいわゆる規範的部分)が、本件協約部分が有効に存在するときは、協約当事者である被控訴人と控訴人分会とは相互に、これを誠実に履行すべきことを請求する法的権利を有する反面、これを誠実に履行すべき法的義務を負うものというべきである。労働協約のすべての条項あるいはそのいわゆる規範的部分に当る条項について、いわゆる紳士協定にすぎない等を理由に、協約当事者は相互に協約内容の履行を訴求することはできない旨の見解は妥当とはいえない。
そして本件確認の訴は、その請求の趣旨からすると、一見過去の法律行為の確認を求めるもののようではあるが、ひつきよう、控訴人分会が被控訴人に対し本件協約部分の履行を求める請求権を有すること(裏面からいえば、被控訴人は同控訴人に対し右の履行をすべき義務を負うこと)の確認を求めるものと解することができるうえ、請求の趣旨自体においても、審判の対象たる権利関係の範囲が明確さを欠くおそれはないものということができる。
2 ところで記録及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人においては、労働時間、休日等について、昭和四八年(但し七月二〇日以前)当時、一週間のうち日曜日を除く六日を原則的労働日とし、一日の定時実働労働時間を七時間、その始業時刻は午前八時、終業時刻は午後三時四五分とされ、控訴人分会所属の従業員も異議なく右定めに従つて就労していたところ、被控訴人は、昭和四八年七月二一日に昭和四八年規則を作成して従業員の労働時間、休日等につきいわゆる隔週五日制(日曜日のほか、隔週土曜日を休日とする。)を導入し、これに伴い一日の定時実働労働時間を従来の七時間から七時間三〇分に延長し、その終業時刻を従来の午後三時四五分から午後四時一五分に変更する等をしたところ、控訴人分会が昭和四八年規則による労働時間等の変更に反対してその効力を争い、被控訴人との間で紛争が生じ、本件訴訟が提起されるに至つたこと、同控訴人は当初請求の趣旨を「被控訴人の昭和四八年七月二一日改訂施行にかかる就業規則のうち別紙記載部分は無効であることを確認する。」としていたが、のちに本訴確認請求のとおりに改めたこと、被控訴人と控訴人分会との間には本件協約部分の効力についての種々の争いが存在することが認められる。
右認定の本件紛争の経過並びに弁論の全趣旨によれば、昭和四八年規則をめぐつて被控訴人と控訴人分会との間で紛争が発生し、これが本件協約部分の効力の存否の争いにまで発展したものであるから、本件協約部分の効力の存否が裁判所の判決により公権的に確定されれば、右紛争のすべてが解決されることを期待することができ、したがつて、右紛争から派生する控訴人分会の法律上の地位についての現在の危険、不安を除去するために、本件協約部分の効力の存否を確定することが必要かつ適切であると認められるから、本件確認の訴は確認の利益があるというべきである。
本件確認の訴は、被控訴人とその従業員間の労働契約に基く具体的な賃金請求権等の権利の存否の確定を求めるものではないから、本件協約部分の効力の存否の確定によつて右具体的な権利の存否が確定されるものでないことは明らかであるが、それ故に本訴確認請求が具体性・特定性を欠くとか、紛争解決上の直截性・有効性を欠くとはいえない。なぜなら、労働組合は、労働者の「労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的」とする(労組法二条)社団であつて、その目的遂行の必要上、使用者と労働協約を締結することができる(同法一四条)とされており、また労働協約は規範的効力等があつて、究極的には労働者と使用者との労働契約の規制を企図するものではあるが、労働組合の目的・性格及び労働協約の性質・効力等にかんがみると、労働協約に基く労使間の争いは、直接的には使用者と労働組合間の固有の法律上の紛争たりうるものであつて、労働組合あるいは使用者の提起する確認の訴が右紛争を解決するのに必要かつ適切であるときは、それが労働契約に基く労働者の具体的な権利関係の確定を求めるものでなくても訴の利益の存在を肯認すべきであるからである。
3 以上説示したところからして、本件確認の訴に対する判決の既判力が被控訴人の従業員に及ばないことの故をもつて、その確認の利益を否定すべき理由とはなしえないことは明らかである。
4 もつとも本件において、控訴人分会は控訴の趣旨2項の予備的請求の如く被控訴人に対し本件協約部分の履行を求める給付請求をもなしうると解されるので、この点で本訴確認請求の訴の利益の存在に一応の疑問が生じうるが、前叙の如く、本件では本件協約部分の効力の存否が公権的に確定されれば、これをめぐる紛争のすべての解決が期待しうるうえ、本件のような労働協約の履行を命ずる給付判決の執行方法上の問題点にもかんがみると、紛争解決上の直截性・有効性という点において、本訴確認請求と右給付請求との間に径庭はなく、右のいずれについても訴の利益があると認めるのが相当である。
5 そうすると、控訴人分会の本件確認の訴は適法であるというべきであつて、これを不適法として却下した原判決は相当でない。
二 次に、当裁判所は控訴人賀紋の債務不履行に基く損害賠償の従前請求は、主文第三項の限度において正当として認容し、右請求のその余の部分及び不法行為に基く損害賠償の選択的新請求(右認容の額を超える部分)はいずれも失当として棄却すべきものと判断するものであつて、その理由は、次に付加・訂正するほか、原判決理由説示(原判決二三枚目表末行から同三六枚目表初行まで)のとおりであるからこれを引用する。
1 原判決二三枚目裏六行目の「原告山村、同賀紋(以下、原告山村らという。)」を「控訴人賀紋」と、同二八枚目表一一行目及び同二九枚目表九、一〇行目の各「原告山村ら」をいずれも「控訴人賀紋」とそれぞれ改める。
2 同二三枚目裏七行目から同二四枚目表七行目の「本件協約」までを「債務不履行及び不法行為に基く各損害賠償請求の前提として、昭和四八年当時被控訴人との労働契約において、一日の定時実働労働時間は七時間、その始業時刻は午前八時、終業時刻は午後三時四五分と定められていた旨主張するので、この点について判断する。
1 控訴人賀紋の被控訴人会社における一日の定時実働労働時間及びその始・終業時刻如何は、労働者である同控訴人の「労働条件その他労働者の待遇に関する基準」(労組法一六条)に該当するものであることが明らかであつて、これについては労働協約の定めるところによるべきものである(同条)から、まず、昭和四八年当時被控訴人と控訴人賀紋が所属する労働組合との間に右の点に関する定めのある労働協約が存在していたか否かについて案ずるに、被控訴人が昭和四八年四月一日現在資本金一四億三〇〇〇万円、多数の従業員(従業員数が一六〇一名であることは前記認定のとおりである。)を雇用する株式会社であり、控訴人賀紋が昭和四〇年四月一日被控訴人に雇用された従業員で、控訴人分会の組合員であること(原審における控訴本人賀紋の尋問の結果並びに弁論の全趣旨によると、同控訴人は昭和四三年四月に控訴人分会の組合員になり、昭和五一年七月当時なおその地位にあつたことが認められる。)、控訴人分会が被控訴人の従業員で組織された労働組合であるところ、昭和三〇年六月一日被控訴人との間で本件協約を締結したこと、本件協約五〇条が被控訴人従業員の「勤務時間は一日八時間、実働七時間を原則とし、午前八時始業、午後四時終業とする。」旨定めていること、また、本件協約」と、同二四枚目裏初、二行目の「右争いのない事実によると、」を「右事実によると、被控訴人と控訴人賀紋が所属する控訴人分会との間で締結された本件協約には被控訴人の従業員の一日の定時実働労働時間及びその始・終業時刻に関する定めがあるところ、」とそれぞれ改める。
3 同二六枚目表一一行目の「原告分会」の次に「(表示・全日本造船機械労働組合佐野安船渠分会、成立に争いのない乙第一号証及び原審証人稲葉一二三の第二回証言によれば、控訴人分会は昭和三三年頃従前の日本労働組合総評議会全国金属労働組合佐野安船渠支部の名称を右名称に変更したことが認められる。)」を挿入する。
4 同二八枚目表四行目の「事情及び趣意」の次に「、右意見書提出後の経過」を挿入し、同表七、八行目の「転回」を「展開」に改め、同裏三行目の「又」の次に「昭和四十三、四年当時の」を挿入し、同裏九行目の「又本件協約」から同末行の「証言(第一回))」までを「又控訴人分会は本件協約の改訂交渉の過程において一二六条(争議行為を開始する前に五〇時間の冷却期間をおくこと)の改訂を求めたところ、被控訴人との合意に達せず改訂されるに至つていないため、控訴人分会においては現在まで右条項を遵守してきていること(この事実は原審証人稲葉一二三の第一回証言によつて認められる。)」と改める。
5 同二九枚目表二行目の「その余後効的な効力によつて」を「本件協約のうちの唯一交渉団体約款及び平和義務に関する条項の基本的な考え方に沿つて」と、同表七行目の「相対」を「対応」と、同裏八行目の「本件において」から同三〇枚目表四行目末尾までを「前叙の如く、昭和四八年当時本件協約は有効に存在していたものというべきであるから、被控訴人の従業員の一日の定時実働労働時間を七時間三〇分、その終業時刻を午後四時一五分とする旨を定めた昭和四八年規則(昭和四八年規則の内容が右のとおりであることは当事者間に争いがない。)は無効であるというべきであり、かつ、その当時の控訴人賀紋と被控訴人との間の労働契約は、本件協約に定める基準に従い、同控訴人の一日の定時実働労働時間は七時間、その始業時刻は午前八時、終業時刻は午後四時である旨の内容(但し、その具体的内容は後記のとおりである。)であつたと認められるものであり、被控訴人主張の如く昭和四九年一月以降に本件協約が失効したとしても、それ故に無効であつた昭和四八年規則が有効になつて控訴人賀紋と被控訴人との右労働契約が変更されるいわれはないから、右主張はいずれも失当であるといわざるをえない。
そこで、昭和四八年七月二一日以降の控訴人賀紋の被控訴人会社における一日の定時実働労働時間、その始・終業時刻に関する具体的な労働契約の内容について検討する。」とそれぞれ改める。
6 同三〇枚目表六行目の「第六号証」を「第五号証の一、第六号証、第一四号証の一、二」と改め、同裏四行目の「及び休暇」を削り、同五行目の「祝日」の次に「(そのうち、春分の日など年五日)」を挿入する。
7 同三一枚目表五、六行目の「制定実施された」を「控訴人分会(表示・総評全国金属佐野安船渠支部)の異議ない旨の意見を聴いたうえで作成・実施した」と改める。
8 同三三枚目裏二行目の「被告の」から同三五枚目表一〇行目末尾までを次のとおり改める。
「本件協約は、被控訴人の従業員の一日の定時実働労働時間を七時間と定めてはいるが、他方定時実働労働の始・終業時刻及び休憩時間についての前記のような定めによると、一日の定時実働労働時間が計算上七時間五分となる明らかに矛盾した内容のものであつたので、控訴人分会と被控訴人は、その締結後協議のうえ定時実働労働時間が七時間であること及び休憩時間が四五分であることが基本であつて、始・終業時刻に関する定めに過誤があつたことを確認し、昭和三二年四月末までは事実上始業時刻を午前八時五分とする旨の運用をし、同年五月一日からは、控訴人分会の賛成を得て被控訴人が昭和三二年規則で始業時刻を午前八時五分と定めたが、その後右両者は昭和三九年に始業時刻を午前八時と本件協約の文言と一致させるとともに終業時刻を午後三時四五分に繰り上げる旨の合意をしたものであるところ、昭和四二年に作成・実施された昭和四二年規則は右合意と同一内容の規定をもうけており、その他被控訴人の社内用広報紙である佐朗報にも掲載される等の方法で右合意の存在及び内容が確認され、その内容も労使間で紛議の生じる余地もない一義的・明確なものであつたことが認められる。
このように、本件協約のうち、被控訴人の従業員の一日の定時実働労働時間、その始・終業時刻、休憩時間に関する条項は、相互に矛盾する内容のものであつたから、その具体的な適用に当つては合理的解釈により適切な補正がなされるべきものであつたところ、一般に労働協約の適用上必要な解釈についての労使間の合意は、必ずしも書面によることを要しないものというべきであり、その内容が明確であつて、かつ、協約の目的に沿い、他の基本的な条項の趣旨と合致する等合理的なものである限り、口頭によるものであつても、協約当事者を拘束するものと解すべきである。
そして、前記認定の昭和四七年四月八日頃までにおける被控訴人の従業員の一日の定時実働労働時間等についての協議や合意、就業規則の作成等は、すべて本件協約の適用上の解釈に関するものであつて、昭和三九年の前記合意の内容は、明確であるうえ、前記見解に照らして合理的なものと認められるから、被控訴人は、本件協約のうち一日の定時実働労働時間等に関する条項につき右合意によつて解釈・補正されたもの、すなわち、被控訴人の従業員の一日の定時実働労働時間は七時間、その始業時刻は午前八時、終業時刻は午後三時四五分、休憩時間は午前一一時四五分から午後零時三〇分までとする旨の実質的な意味での本件協約に拘束され、これに反する就業規則を作成することは許されないものというべきである。
したがつて控訴人賀紋と被控訴人との間の労働契約は、昭和四三年四月一日以降、控訴人賀紋の被控訴人会社における一日の定時実働労働時間は七時間、始業時刻は午前八時、終業時刻は午後三時四五分、休憩時間は午前一一時四五分から午後零時三〇分までの四五分である旨の内容のものであつたというべきである。」
9 同三五枚目裏八行目から同三六枚目表初行末尾までを次のとおり改める。
「四 以上認定の事実によると、被控訴人は、昭和四八年七月二一日以降においても、控訴人賀紋に対し、月曜日から土曜日まで一日八時間の勤務中定時実働労働として七時間(午前八時から午前一一時四五分までの三時間四五分及び午後零時三〇分から午後三時四五分までの三時間一五分)の限度で労務の提供を求めるべきであつて、右限度を超えて労務の提供を命じる等してはならず、同控訴人が右態様での労務を提供するときは、同控訴人に対し所定の賃金を支払うべき義務を負つていることはいうまでもないところであり、また、同控訴人が右態様での労務を提供したことが昭和四八年規則に違反するとの理由で、賃金、労働時間その他の労働条件について懲戒処分を含む不利益な差別的取扱いをしてはならない義務を負つているというべきである。
しかして控訴人賀紋は、被控訴人が同控訴人に対し同控訴人の当審主張1(三)記載のように労働契約に定めのないことを強制し、不利益な差別的取扱いをしたので財産的・精神的損害を被つた旨主張するので、この点について判断する。
1 まず、控訴人賀紋が契約外強制・不利益な差別的取扱いの一つとして主張する「被控訴人による定時労働三〇分間分の賃金カツト及び残業手当の不払」は、契約法上は要するところ、被控訴人の賃金支払債務の履行遅滞にすぎないから、これを追完の許されない不完全履行としてその填補賠償請求をすることはできない。
また、前記認定の事実、前掲乙第五号証の一、成立に争いのない甲第三〇号証の一、二、第三一、第四〇号証、原審における控訴本人賀紋の尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第三二、第三三号証、前掲証人原亨の証言により真正に成立したものと認められる乙第五号証の二、三、乙第一六号証の一、二、同証言、前掲証人田中滋晃、同稲葉一二三(第二回)の各証言、控訴本人賀紋の尋問の結果(一部)並びに弁論の全趣旨によれば、被控訴人は、昭和三四年四月一日控訴人分会(当時、被控訴人会社内の唯一の労働組合であつた。)との間で、被控訴人の従業員の工員についても同年同月二一日から賃金について月給制(前月の二一日より当月の二〇日までの分を当月末の一日前に支払う。)とする旨協定し、同月二一日以降全従業員(職員についてはそれまでに月給制がとられていた。)について月給制がとられるに至つたところ、佐野安労組(昭和四七年一二月に被控訴人の従業員によつて結成された控訴人分会とは別個の労働組合である。)と昭和四八年五月一一日「一九七三年春斗に関する協定書」を、同年七月二〇日「労働時間短縮・隔週五日制に関する協定書」及び「同覚書」をそれぞれ取り交わして、同組合所属の従業員との間で隔週五日制を導入し、一日の定時実働労働時間を七時間三〇分に延長し、それに伴つて一時間当りの賃率を従前の約一・〇三七(一七五を一六八・七五で除したもの)倍に増率させるとともに、平日の時間外労働の賃率を従前の定時労働比一・二五倍を一・三倍に、休日出勤の場合の労働の賃率を従前の定時労働比一・二七倍を一・三倍にそれぞれ増率する旨、従前の労働契約を変更し、同年七月二一日に昭和四八年規則を作成し、右組合所属従業員との間で右各協定及び昭和四八年規則に従つて賃金支払等の事務処理をしてきており、控訴人分会所属の従業員に対しても右各協定及び昭和四八年規則の効力が及ぶものとして前同様の処理をしてきたこと、したがつて、被控訴人は、昭和四八年七月二一日以降において控訴人賀紋の賃金額の決定に当り、同控訴人が一日七時間の定時実働労働を午後三時四五分に終えた場合には、定時実働労働としては三〇分間の不就労があつたとして取扱い、他方、その賃率は前記増率後のものを用い、また休日となつた隔週土曜日に勤務した場合には、休日勤務したものとして平日の時間外労働をした場合と同様に前記増率後の賃率を用いたこと、例えば、控訴人賀紋は、昭和四九年六月(同年五月二一日から六月二〇日まで)においては、定時実働労働分として一・七五時間(八二・五時間から八〇・七五時間を控除したもの)分多く賃金がカツトされ、一八時間の時間外労働をしたのに二〇・五時間の時間外労働をしたものとして取扱われ、同年七月(同年六月二一日から七月二〇まで)においては、定時実働労働分として五・二五時間(一五時間から九・七五時間を控除したもの)分多く賃金カツトされ、三九時間の時間外労働をしたのに五〇・五時間の時間外労働をしたものとして取扱われ、また、昭和五一年二月(同年一月二一日から二月二〇日まで)においては、定時実働労働分として四・二五時間分の賃金がカツトされ、三七時間の時間外労働をしたのに二五・三時間の時間外労働をしたものとして取扱われていること、但し昭和五一年二月分の右取扱いで時間外労働が少ないものとされているのは、控訴人賀紋が、昭和四八年規則上休日とされている同年一月三一日(第五土曜日)及び同年二月七日(第一土曜日)に就労していないことによるものであることが認められ、前掲控訴本人賀紋の尋問の結果のうち右認定に副わない部分はにわかに措信し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
右認定の事実によれば、被控訴人の控訴人賀紋に対する昭和四八年七月二一日以降の賃金額の決定・支払等に関する取扱いは、同控訴人主張の昭和五一年七月までの三年間を通じてみればもとより、これを月単位でみても必ずしも同控訴人に不利益なものであるとは認められず、同控訴人の賃金請求権その他契約外強制・不利益な差別的取扱いを受けない法的利益を侵害し、財産的損害を与えるものとはいえない。
2 次に控訴人賀紋は、被控訴人が同控訴人に対し昭和四九年四月から同五一年七月までの各四月の定期昇給及び各七月、一二月の一時金査定時に不利益な差別的取扱いをした旨主張するが、この点について何ら具体的な立証をしないので、同控訴人のこれを前提とする債務不履行あるいは不法行為に基く損害賠償請求の主張は採用することができない。
3 また同控訴人は、被控訴人が午後三時四五分に定時実働労働を終えた同控訴人に出門の準備をさせず不当にその身柄を拘束した旨主張し、前掲証人田中滋晃の証言、控訴本人賀紋の尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、控訴人賀紋を含む控訴人分会の青年婦人部所属の従業員らは、昭和四八年七月二一日以降も午後三時四五分に定時実働労働を終え出門の準備をしようとしたが、数日にわたり、ロツカーが締め切られ、浴場を利用しえなかつたこと等があり、被控訴人の労務部の担当者にこれを抗議したところ、同担当者らはその後一週間以内に控訴人分会の所属の従業員に対しその要求時間帯にロツカーや浴場等を開放したことが認められるが、控訴人賀紋が被控訴人により不当に身体を拘束されたことを認めるに足りる証拠はない。
右認定の事実に照らせば、同控訴人が被控訴人の右取扱いにより金銭賠償の対象となるべき程度の財産的・精神的損害を被つたとは認めることができない。
4 同控訴人は、被控訴人が昭和四九年三月及び同五一年四月頃に同控訴人に対し無断早退を理由として就業規則違反で処分する可能性がある旨の指示書や警告書を交付した旨主張するが、右主張を認めるに足りる証拠はない。
しかしながら、成立に争いのない甲第四五号証、被控訴人の労務部長作成の昭和四八年八月二七日付の「告」と題する掲示書を撮影した写真であることが争いのない検甲第一号証並びに弁論の全趣旨によれば、被控訴人は、昭和四八年八月二四日に労務部長名義の書面で各部課長に対し従業員に昭和四八年規則に従つた勤務態様を遵守させるように指示し、同月二七日には社内掲示書により全従業員に対し、昭和四八年規則に従つて勤務するよう命じるとともに、これに従わない従業員には賃金カツト及びその他の措置をとることがある旨を警告したことが認められ、右の事実、原審における証人原亨、同田中滋晃の各証言、訴取下前の相原告本人小山源一郎、控訴本人賀紋の尋問の各結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、同控訴人は、昭和四八年四月二四日以降において、その直属上司等から、前記労務部長名義の書面による指示どおり昭和四八年規則に従つて勤務するように命ぜられ、これに従わないときは人事考課上等で不利益な査定を受け、又懲戒処分を受けるかも知れない旨告知されたこと、同控訴人は昭和四八年規則が実施された当初から前記労働契約どおりの態様で勤務していたが、右のような告知を受けたため、昭和五一年七月頃以降昭和四八年規則に従つて勤務せざるをえなくなつた(但し、その後も、青年婦人部の組合員数名とともに、月一回、反対の意思表示の行動を続けていた。)ことが認められる。
右認定の事実によれば、被控訴人の同控訴人に対する右取扱いは、同控訴人に対して労働契約に定めのないことを命じる等してはならない義務に違反する違法なものというべきであり、同控訴人が被控訴人の右債務不履行により相当の精神的苦痛を被つたことは推認するのに難くないところであつて、本件に顕われた一切の事情を斟酌すると、その慰藉料として五万円が相当であると認められる。
5 そうすると、被控訴人は同控訴人に対し債務不履行に基く損害賠償(慰藉料)として五万円及びこれに対する訴変更の翌日であることが記録上明らかな昭和五三年一二月七日から支払済に至るまで民事法定利率五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があり、同控訴人は被控訴人に対し、右認容の額を超えて、不法行為に基く損害賠償請求権をも有しないものというべきである。」
三 以上の次第で、控訴人分会の本件確認の訴を不適法として却下した原判決は相当ではないから、民訴法三八八条により原判決主文第一項を取消して控訴人分会の訴を大阪地方裁判所に差し戻すこととし、また、控訴人賀紋の債務不履行に基く損害賠償の従前請求は前記認容の限度では正当であるからこれを認容し、その余の部分は失当として棄却すべきところ、これと趣旨を異にする原判決は相当ではなく、同控訴人の控訴は一部理由があるから、原判決主文第三項を右のとおり変更し、なお、同控訴人の不法行為に基く損害賠償の選択的新請求(右認容の額を超える部分)も失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、九二条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 仲西二郎 高山晨 大出晃之)
(別紙)
一、第一二条
一日の勤務時間は、実働七時間三〇分を原則とし、始業(作業着手)終業(作業終了)及び休憩時間は次のとおりとする。
なお、作業とは、始業付帯作業、本作業、終業付帯作業を指す。
1 就業時間 始業 午前 八時〇〇分
終業 午後 四時一五分
2 休憩時間 自 午前一一時四五分
至 午後 〇時三〇分
一、第一四条
業務上必要あるときは特定の期間に四週間を平均して一週間に実働四一・二五時間の範囲内で第一二条の勤務時間とことなる取扱いをすることがある。
但し、満一八歳未満の者についてはこの限りではない。
一、第二〇条
(一) 年間労働日(七月二一日から翌年七月二〇日まで)は二七〇日、年間労働時間は二〇二五時間として次に掲げる各号を中心に毎年年間休日を設定する。但し、同一日に休日が重複する場合でも重複のゆえをもつて他の日を休日としない。
1 日曜日
2 国民の祝日(元日、成人の日、建国記念日、春分の日、天皇誕生日、憲法記念日、子供の日、敬老の日、秋分の日、体育の日、文化の日、勤労感謝の日)
3 第一、第三、第五週土曜日
4 会社創立記念日
5 労働祭(五月一日)
6 年末年始(一二月三〇日、三一日、一月二日、三日)
7 夏季休日(七、八月中においてその都度定める一日間)
(二) 会社は業務上、その他必要あるときは第1号ないし第4号の休日を就業日に振りかえることがある。
一、第二四条
所定時間外就業の場合の休憩時間はつぎのとおりとする。
午後四時一五分より午後四時三〇分(一五分間)
午後八時三〇分より午後九時〇〇分(三〇分間)
午前〇時〇〇分より午前一時〇〇分(一時間)
午前六時四五分より午前七時〇〇分(一五分間)
(但し、早出を除く)